研究概要 |
突然変異は,核酸塩基の互変異性体が,関与しているといわれている。しかし,互変異性体は合成することはもとより確認することすら難しい。そこで塩基の互変異性体に相当するエノール型イソスターを設計し合成することを試みた。計画書に伴い,グアニンのエノール型異性体として,2-Amino-5-trifluoromethyl-7H-pyrrolo[2,3-d]pyrimidin-4-olを合成することを計画した。この化合物は,5位にトリフルオロメチルを持ち,フッ素の強い電気陰性度のために,環内の電子が不足している。そのため芳香化して安定化すると予想される。また,フッ素原子は隣接するエノール水素と水素結合を形成する可能性が高いため,エノール型構造を安定化すると考えた。さらに,この化合物は電気的および立体的な面からグアニンエノール構造にそっくりであることからも,絶好のグアニンエノール型ミミックであるといえる。合成は以下のように行った。まず,1-Chloro-3,3,3-trifluoro-propeneを金属ナトリウムの存在下,メタノールと反応させ,3,3,3-Trifluoro-1-methoxy-propeneを収率良く得た。続いてこの化合物をヘキサン酸中,ジメチルスルホン酸存在下で加水分解を行って,3,3,3-Trifluoro-propionaldehydeに変換した。得られたアルデヒドを酢酸中で臭素を作用させ,2-Bromo-3,3,3-trifluoro-propionaldehydeを収率良く合成した。この臭化アルデヒドをDMFと水の混合溶媒中2,6-Diamino-pyrimidin-4-olと室温で反応させた後,酢酸ナトリウムを加え1昼夜加熱還流することにより,目的とする2-Amino-5-trifluoromethyl-7H-pyrrolo[2,3-d]pyrimidin-4-olをごく微量であるが得ることに成功した。この化合物の構造をさらに確認するため,無水酢酸およびピリジン中で加熱撹拌してアセチル化を施し,アセチル体として構造を決定した。また,これとは別に包水フロラールをDMFと水の混合溶媒中にて,2,6-Diamino-pyrimidin-4-olと室温で反応させた後,酢酸ナトリウムを加え1昼夜加熱還流すると,7-Amino-2,4-bis-trifluoromethyl-1,4-dihydro-2H-pyrimido[4,5-d][1,3]oxazin-5-olが一挙に得られることがわかった。この化合物の環骨格は,5/6システムではなく6/6システムであるが,電気陰性度の高い2つのトリフルオロメチル基で置換されているため環内が電子不足状態となったエノール構造をとる化合物であり,興味深いイソスターになりうると考えている。
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