研究概要 |
当研究室の開発したNMRを用いた交差飽和法によるタンパク質複合体相互作用界面決定法は、複合体のNMRシグナルの観測を行うため、現実的な適用限界はタンパク質複合体の分子量が5万程度のものまでに限られていた。創薬のターゲットとなる可能性の高い膜タンパク質などの高分子量タンパク質複合体に適用範囲を拡張するため、転移交差飽和法の開発を行った。タンパク質複合体において、リガンドタンパク質を過剰量加えることにより、その分子について非結合状態と結合状態の交換系を作り出すことが可能となる。この交換が適当な頻度で起こっている場合、非結合状態の分子においても、結合状態で生じた交差飽和の影響を保持していると考えられる。よって、非結合状態由来のNMRシグナルを観測することにより、複合体そのもののNMRシグナルを観測せずに、複合体の相互作用界面に関する情報が得られる。具体的には,黄色ブドウ球菌の産生する免疫グロブリン結合タンパク質であるプロテインAのBドメイン(FB)と免疫グロブリンGとの複合体(分子量約160K)を用いて検討を行った。最適条件(リガンド-タンパク質モル比、化学交換速度、溶媒の軽水/重水率、飽和方法・時間、等)の探索を行った結果、交差飽和法と同等の精度で複合体界面を決定することが出来、目標としていた適用範囲の拡張に成功した。 従来の構造生物学的手法では、不均一かつ不溶性の巨大分子を観測対象とすることは事実上不可能であった。申請者らは、転移交差飽和法を用いて、不均一かつ不溶性の巨大分子であるコラーゲンとその認識ドメインであるvWA-A3の結合界面同定を試みた。その結果、相互作用界面の同定に成功するとともに、機能も構造も類似性が高い、インテグリンIドメインとは全く異なるサイトで、vWA-A3がコラーゲンを認識することを明らかにした。
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