当研究室の開発したNMRを用いた交差飽和法によるタンパク質複合体相互作用界面決定法の適用を拡張した。タンパク質における糖結合界面の高精度かつ迅速な決定法の確立を目指し、CD44-ヒアルロン酸(以下HAと表記する)間相互作用解析に交差飽和法を適用した。 まず、CD44に関する構造情報を得るため、CD44のヒアルロン酸結合ドメイン(以下HABDと記す)の二次構造を決定した。その結果、CD44 HABDは、他のヒアルロン酸結合タンパク質とのアミノ酸相同性が高いリンク・モジュールの立体構造を保持していること、さらに付加配列領域においてβシートを形成して広いHA結合面を形成していることが明らかになった。 次に、HA結合界面を同定するため、交差飽和法を適用した。HAへのラジオ波照射により、LM内の11残基が選択的にシグナル減衰率20-60%の交差飽和の影響を受けたが、付加配列領域のG152にも同様な交差飽和現象が見られた。この結果は、付加配列領域にもHAと直接結合する領域が存在することを示す。さらに、化学シフト摂動実験を行った結果、顕著な化学シフト変化がLM内の7残基で観測されたが、付加配列においては実に18残基に観測された。これらの結果から、CD44 HABDのリンク・モジュール領域に加え、付加配列のG152近傍もHAと接触し、さらに付加配列全体に構造変化が誘起されることが強く示唆された。今後、コンドロイチン硫酸などへ適用し、迅速かつ原子レベルの分解能をもつ相互作用解析法として確立することを目指す。
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