本研究では、薬物代謝に関わるタンパク質の中でも主要な位置にあるヒト由来CYP2C9を対象とし、SNP情報を基礎とする各種変異体の薬物結合性と薬物代謝活性の測定を通して、ゲノム情報に基づいたオーダーメード医療を可能にする分子論的指針を確立することを目的とした。まず、大腸菌による発現に至適化して試験管内全合成されたCYP2C9遺伝子を発現ベクターに組換え、CYP2C9タンパク質の大量発現系を構築した。代謝活性や分光学的測定に十分な量のCYP2C9を得ることができた。この標品を用い、薬物結合性と代謝活性の測定を行った。酸化型標品を薬物で滴定して吸収スペクトル変化を追跡することにより、薬物の結合親和性を決定した。薬物としては、ワルファリン、トルブタミド、アスピリン、インドメタシン、メフェニトイン等を用いた。難溶性薬物の結合性を広範かつ迅速に調べるため、微量透析法を用いて検討した。その結果、吸光度変化より求めた結合定数とほぼ一致する値を得ることができた。次いでCYP2C9の酸化型とCO結合型の共鳴ラマンスペクトルを測定した。その結果、酸化型では薬物の結合に伴って高スピンヘムが形成すること、薬物はCO近傍のヘムポケット内に結合することがわかった。また、グルコース6リン酸/グルコース6リン酸脱水素酵素/NADPH/シトクロムb5/CYP還元酵素/CYP2C9の系で薬物の水酸化反応を行い、生成物をHPLCにより定量した。その結果、本CYP2C9は十分な薬物代謝能を持つことを確認できた。
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