研究概要 |
マスト細胞を抗原で刺激したときに生じるp44/42 MAP kinaseの活性化には抗原刺激によるMAP kinase kinase kinaseであるRaf-1の脂質ラフトへの移行と脂質ラフト中での活性化が必要である。また脂質ラフト中で種々の機能分子がRaf-1と相互作用しその活性化を制御していると考えられる。ステロイド性抗炎症薬デキサメサゾンで18時間処理すると抗原刺激による脂質ラフト中でのRaf-1の活性化が抑制されることを初年度に明らかにした。そこで、抗原刺激及びステロイド性抗炎症薬により脂質ラフトへの移行が変化する機能分子を探索し、脂質ラフト中でのシグナル伝達の制御機構を解析した。 IgEで感作したラットマスト細胞株RBL-2H3細胞を抗原で2分間刺激後、脂質ラフトを回収し、p44/p42 MAP kinaseの活性化に関わる機能分子14-3-3,heat shock protein 90(HSP90)、raf kinase inhibitory protein(RKIP)、kinase suppressor of Ras(KSR)、Spred-1について解析した。これらのうち、脂質ラフト中に検出されたものは、HSP90及びSpred-1であった。デキサメサゾンで前処理した後、抗原で刺激した場合、脂質ラフト中のLAT及びRasの量はほとんど変化しなかったが、Spred-1量は増加した。Raf-1抗体で免疫沈降したところ、Raf-1とSpred-1の結合が観察された。Spred-1は増殖因子によるp44/42 MAP kinaseの活性化を抑制する、ことが報告されているため、デキサメサゾンによりspred-1の脂質ラフト中の濃度が増大し、その結果としてp44/p42 MAP kinaseの活性化が抑制されることが示唆された。ステロイド性抗炎症薬は様々な細胞機能を抑制するが、その一つの機序として脂質ラフトへの機能蛋白質の集積を制御していることが示唆された。
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