研究概要 |
細胞膜をαヘリックスが貫通する膜七回貫通型受容体は,アゴニストと特異的に結合して活性化し,細胞内にリガンド結合の情報を伝達する。本研究では,この受容体で代表的なヒトβ2アドレナリン受容体の三次元構造をX線結晶構造解析により明らかにし,その機能の薬理学的な理解を得るために,結晶化に向けた,受容体を高純度で大量に調製する方法の構築を目的とした。本年度では,3年次の計画の研究の第2年度として,アドレナリン受容体の発現レベルのさらなる向上を目指した。 本受容体の遺伝子を,メタノール資化性酵母Pichia pastorisの発現ベクターpPIC9K(酵母のα-ファクターの分泌シグナルを利用)に組み込み,ベクターを酵母のゲノムに挿入した株を得た。 受容体の遺伝子には,酵母では使用されないあるいは使用頻度が低いコドン(レアコドン)が含まれ,アミノ酸残基の約50%がレアコドンに相当している。このコドン使用の相違が,低い発現レベルしかもたらさないのではないかと考えられた。そこで,これらのコドンを酵母で用いられているコドンに置き換えたコドン最適化遺伝子を調製し,発現ベクターに組み込んだ。 新たな組み換え体の株について,Geneticin耐性を利用して,ベクターができるだけ多くゲノムに組み込まれた株(マルチプルコピー株)を選択した。ホストとしてSMD1168株用いたところ,従来の高発現株に比して,約10倍高い発現レベルの株を得ることができた。培地4Lあたり,およそ20mgの発現量と推定される。 今後は,精製に用いるクロマトグラフィー条件を種々検討し,結晶化用の大量サンプル調製と結晶化を進める計画である。
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