β1アドレナリン受容体(β1受容体)は、心臓での収縮力や心拍数の調節に関与している。交感神経系の興奮が長期にわたると、細胞は受容体数を減少させることで刺激の強さを減弱させようとする。この受容体数減少の過程には、少なくとも受容体遺伝子の転写抑制ならびにmRNAの不安定化が寄与していると考えられている。特に心臓が心不全の状態に陥るとβ1受容体のみが選択的に減少することから、受容体のmRNAに選択的に作用し不安定化を引き起こすRNA結合タンパク質の寄与が推定されている。そこで、大腸菌の転写終結を利用したアッセイ系でRNA結合タンパク質とβ1受容体のmRNAとの相互作用を解析できる系を確立することを試みた。RNA結合タンパク質(AUF1、hnRNAP-β1およびHuR)をN-タンパク質との融合タンパク質として発現させ、一方β1およびβ2受容体の3'非翻訳領域をβ-ガラクトシダーゼの上流に置くと、両者が相互作用するときのみβ-ガラクトシダーゼ活性が観察される。また、RNA結合タンパク質とmRNAとの相互作用の強さは、β-ガラクトシダーゼ活性値と相関する。このアッセイ系を用いて、AUF1はβ1およびβ2受容体のいずれとも相互作用すること、しかしhnRNP-A1とHuRは両受容体と相互作用しないことが明らかになった。次に、RNA結合タンパク質とmRNAの結合がタンパク質キナーゼによって制御されている可能性を検討するために、β受容体刺激で活性が変化するとされるGSK3βを発現させた。GSK3βを発現させると、β1受容体との相互作用が減少したものの、β2受容体との相互作用は変化しなかった。今後、β1受容体のmRNAの不安定化が受容体刺激によって活性化されたGSK3βによるAUF1のリン酸化を介しているのか細胞レベルで検討し、心不全時の選択的なβ1受容体の減少のメカニズムにつなげたい。
|