研究概要 |
ヒト遺伝子疾患の再生移植治療法の開発を目指し、遺伝性酵素欠損症の疾患モデルマウスへの障害組織への細胞補充を目的として、マウス胚性幹(ES)細胞から組織指向性細胞株を樹立するための基礎研究を進めており、今年度は下記の成果を得た。 1 血流中から血管内皮細胞層を透過する能力をもつ細胞株を樹立するため、細胞外マトリクス成分の混合物(マトリジエル)、ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)およびBoydenチャンバーを用いた人工底基膜と人工血管系の構築を試みた。マトリジエルから構成される人工基底膜を浸潤し、突起形成を伴う極めて特徴的な形態を示すマウスES細胞由来の細胞が見出された。浸潤細胞の大部分はβ2-インテグリンを発現し、また一部は神経幹細胞マーカーであるネスチン陽性を示した。 2 FGF2,EGFおよびIGF1等の増殖因子が協同してES細胞の浸潤を促進することが明らかになった。 3 HUVECの培養上清中にこれらの増殖因子とは異なるES細胞浸潤促進活性が存在することが判明した。この培養上清をES細胞に作用させ、二次元電気泳動法により細胞内プロテオームの変動を解析し、既知の増殖因子の作用とは異なる新たなタンパク質の発現が誘導されることが明らかになった。 4 ハリクロリンは、HUVECの接着分子であるVascular cell adhesion molecule(VCAM-1)の誘導阻害作用を示すアルカロイドである。マウスES細胞とHUVECとの相互作用の制御に利用する目的で、ハリクロリンの全合成過程で得られる中間体のHUVECに対する作用を検討した。その結果、ハリクロリンのコア構造を有する鍵中間体にアポトーシス誘導活性が存在することが明らかになった。またこの研究成果に基づき、新規アポトーシス誘導物質として特許を出願した。
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