我々はカドミウムなどの重金属の毒性を軽減する低分子量蛋白質であるメタロチオネイン(MT)の遺伝子多型を検討し、転写開始地点の上流5塩基目とエクソン3領域の2箇所にその存在を認めている。このうち、エクソン部に塩基変異の認められた4例(119例中)は全てが転写開始地点上流にも変異を有する。両多型の存在率からこの結果は偶然とは考えにくく、エクソン部と転写開始地点上流の両方に塩基変異のある人間は成人まで成長することができるが、エクソン3にのみ変異を有する個体は何らかの理由で成人になる前に死亡してしまうという可能性が考えられる。エクソン3に塩基異常のある遺伝子から作られるMT蛋白質(変異MT)が人間の発生又は生育の段階で好ましくない作用を発揮する可能性も否定できない。そこで本研究は、MT遺伝子欠損細胞を作製し、この細胞に変異型のMT遺伝子を導入することによって、エクソン3領域における塩基変異が細胞機能に与える影響を検討することを目的とした。まず、MT欠損マウスから肝臓細胞を単離しSV40で不死化することによって培養可能なMT欠損細胞株(MDL細胞)を樹立することに成功した。この細胞にリポフェクション法またはエレクトロポレーション法を用いた変異MT遺伝子の導入を検討したところ、本細胞は遺伝子の導入効率が非常に悪く、遺伝子導入が困難であることが判明した。そこで、組換えアデノウイルスを利用した遺伝子導入を試みた。正常MT遺伝子ORFを含む発現ベクターを構築して導入したところ転写は確認できたものの蛋白質レベルでの発現は認められなかった。一方、染色体MT遺伝子を導入したところ、翻訳が正常に行われ、蛋白質レベルでの明らかな発現が認められた。本法を用いて変異MT遺伝子をMT欠損細胞に導入することによって、エクソン3領域における塩基変異の影響が明らかになるものと期待される。
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