研究概要 |
(目的) 高血圧(HT)診療は予防医学である。HTをスクリーニングし、診断治療が行われることで、臓器障害の発症進展は抑制され、脳心血管疾患の発症・死亡が予防される。HT診療の医療経済効果はスクリーニング・診断・治療に関わる直接・関節経費と一次・二次予防によってもたらされる利益の差から求められる。高血圧診療のgold standardはなお外来随時血圧(CBP)にあるが、今日HT診療に自由行動下血圧(ABP)、家庭血圧(HBP)が導入され、白衣性高血圧(WCHT),逆白衣性高血圧(RWCHT)の存在が明らかとなった。もしもWCHTが長期にわたり無害なものであるなら、治療に関わる直接・間接経費は不要である。一方、RWCHTが有害なものであれば、介入により脳心血管疾患の予防がなされ、結果として、大きな医療経済効果をもたらす。 (方法) 岩手県大迫町における住民のCBPとABPの関係から得られたWCHT・RWCHT群の予後を追跡した。1987年に開始された大迫町住民40才以上1332人のCBP, ABP測定により、対象を正常血圧(n=823, CBP<140/90mmHg, ABP<135/80mmHg), WCHT(n=220, CBP>140/90mmHg, ABP<135/80mmHg) RWCHT(n=137, CBP<140/90mmHg, ABP≧135/80mmHg), 持続性高血圧(n=152, CP≧140/90mmHg, ABP≧135/80mmHg)に分類し平均10年観察し、性,年齢,喫煙等の介在因子で補正したCox比例ハザードモデルで脳心血管疾患死亡の相対危険比(RH)を分析した。 (結果) 正常血圧者(RH=1)に対し、RWCHTではRH=2.8(P<0.003),持続性高血圧ではRH=2.8(P<0.002)と有為に高値を示したがWCHTではRH=1.2(P=056)と危険比の上昇は認められなかった。従って、WCHTは平均10年の間に薬物治療の介入は必要なく、一方、RWCHTでは充分な介入により、一次、二次予防の可能性が考えられた。 (考察) 前者は、降圧治療の直接・間接経費を削減し、後者は脳心血管疾患症予防による経済効果が期待され、ABPの医療経済効果が明らかとなった。
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