研究概要 |
(目的)高血圧(HT)診療は予防医学である。HT診療の医療経済効果はスクリーニング・診断・治療に関わる直接・間接経費と一次・二次予防によってもたらされる利益の差から求められる。高血圧診療のgold standardはなお外来随時血圧(CBP)にあるが、今日HT診療に自由行動下血圧(ABP),家庭血圧(HBP)が導入され、白衣性高血圧(WCHT)、逆白衣性高血圧(RWCHT)の存在が明かとなった。もしもWCHTが長期にわたり無害なものであるなら、治療に関わる直接・間接経費は不要である。一方、RWCHTが有害なものであれば、介入により脳心血管疾患の予防がなされ、結果として、大きな医療経済効果をもたらす。 (方法)平成14年度実績報告書で記した方法により、大迫住民2821人の各年代層におけるHBPとCBPの関係から、本邦における各年代層のWCHT,RWCHT,過降圧,適正血圧群に分類し、CBPからHBPへの診断法の移行による医療費変動の推移を推計した。 (結果)国民医療費の概況と循環器病基礎調査に基づき、高血圧診療費年間135242円/年、このうち年間薬剤費を56802円とした。更に以下の仮定でできた医療費を計算した。(1)スクリーニングでHTと診断されたものの30%が受診する。(2)HBP導入による降圧薬の増減は±50%。(3)無治療CBP正常の10%がHBPを測定する。以上の仮定に基づきCBPからHBPへHTの診断基準が移行したと仮定すると、診断上ではHTが増加し、即時的影響として医療費は5051億円/年増加する。しかし診断の変化により、本来増薬されるはずであった薬剤費と、新規に必要であったはずの医療費が計6121億円/年回避される。また、HBP導入により的確な血圧コントロールがなされることで高血圧合併症である脳心血管疾患の15〜35%が予防されると考えられ、4644億円/年の合併症医療費及び2621億円/年の合併症介護費が削減される。よって家HBP導入により約8000億円/年の医療費が削減されると推定される。 (考察)HBP導入は、極めて費用効果は高く、HBPの更なる普及が望まれる。今後間接費用等も仮定に加え、更にマルコフ分析を導入し、医療費用を検討していく。
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