光によるマスキング現象には2種類ある。すなわち、夜行性動物の飼育室の電燈を昼間に消すことによる行動量の一過性の増加と、夜間に点灯することによる行動量の一過性の抑制である。このようにマスキングとは外界の電燈の点灯や消灯により、体内時計のリセットとは無関係に時計出力の行動に影響を及ぼすことをいう。このマスキングはヒトが就寝するときに、部屋の明かりが点灯していると入眠しにくいことと関連性があり、不眠研究のよいモデルとなりうる。本年度は、(1)外界の飼育環境の照度とマスキングの関係を調べたところ、明暗飼育時の照度差が大きいほどマスキングが出やすいことが判明した。(2)視交叉上核を破壊すると、このマスキング現象も障害されることから外界の光は視交叉上核を通して、光による時計のリセットとのみならず、マスキング現象をもたらしていることが明らかとなった。(3)新規唾眠薬の候補を探す目的で、ヒスタミン受容体の拮抗薬やアデノシン受容体の拮抗薬の作用について調べた。まず臨床上、眠気や鎮静をもたらすことがよく知られている抗ヒスタミン薬の影響を調べた。その結果、H1受容体拮抗薬は昼間の消灯による行動増大を促進させず、また夜間の光照射による行動抑制にも影響を及ぼさなかった。したがって、光によるマスキング現象にヒスタミン神経系の関与は弱いものと考えられた。また、アデノシン拮抗薬のカフェインが覚醒作用をもたらすことはよく知られた事実であるが、カフェインの投与も、マスキング現象にほとんど影響を及ぼさなかった。したがって本年度は、マスキングにかかわる薬物の発見に至らなかった。次年度は光の細胞内情報伝達にかかわる物質に作用する薬物のマスキングに対する作用について調べる予定である。
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