光によるマスキング機構の解明と新規睡眠薬の開発に関する研究を行った。睡眠リズム障害が報告されているclock/clockのミュータント動物を用いて実験を行った。clock/clockマウスを低照度下の条件で飼育すると、明暗周期に応じて活動期が夜間始まるが、その開始位相が遅れることがわかった。これは、外界の明暗周期の光のマスキングによる行動抑制が強く働くためか、また、clockのミューテーションに伴う周期の延長作用により、暗期になってもすぐに行動が開始しないものと考えられた。メラトニンは睡眠薬として使われているが、この薬物には体内時計の前進作用があることもわかっている。そこで、メラトニンを消灯時に投与し、光によるマスキングに影響を及ぼし、かつ体内時計を前進させることにより、行動の開始位相を前進させることができるかどうか調べた。その結果、メラトニンの0.5mg/kgの3日間投与は、約半数のマウスに改善効果をもたらすことが判明した。 なぜ全部のマウスに効果が見られなかったのか、その理由は不明であるが、メラトニンの光に対するマスキング効果の軽減ならびに位相前進作用が見出せ、この薬物の入眠薬としての新しいプロファイルを示すことができた。セロトニン系化合物も体内時計に作用することが知られているので、5-HT1A/7受容体のアゴニストである8-OH DPATの作用を調べたところ、メラトニンと類似した作用を示した。したがって、5-HT1A/7受容体関連薬物の作用を精力的に調べる必要がある。さらに本モデル動物を使用することにより、光によるマスキングをより抑制する可能性のある薬物のスクリーニングが可能となった。
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