我々は、物質的(生化学的)な検査が脳死判定の補助診断法となるか否か検討した。福井医科大学付属病院において、脳死状態と判定された9例および、植物状態と診断された1例の血清中のNSE濃度、S-100蛋白濃度、および、CK-BB活性を測定した。NSE濃度とS-100蛋白濃度は三菱化学BCLにて、CK-BB活性は当院検査部にて測定した。また、対照として、脳神経外科患者21例からの血清を同様に測定した。尚、測定にあたり、日本臨床検査医学会の「臨床検査を終了した検体の業務、教育、研究のための使用について」を遵守した。結果は、脳死患者群では、NSEは334.1(ng/ml)、S-100蛋白は22.6(μg/l)、CK-BBは6.1(IU/l)で、対照群〔15.0(ng/ml)、0.25(μg/l)、0.81(IU/l)〕と比べ有意に高値であった。植物状態の患者血清では、経過中NSEが最大27.2(ng/ml)まで上昇したが、S-100蛋白とCK-BBは経過中それぞれ0.5(μg/l)未満と0.9(IU/l)以下であった。脳死患者では、病理医が剖検で経験する高度に融解した脳、つまり「レスピレーター・ブレイン(人工呼吸器脳)」を反映して、血清中の神経系特異的蛋白の有意な増加がみられた。植物状態では脳死状態のようには血清中の神経系特異的蛋白は上昇しないと思われるが、今後、さらに症例数を増やすとともに、対象疾患を広く検討する必要がある。これらの結果は2003年4月福岡で行われる第92回日本病理学会総会にて発表予定である。さらに、同一患者において、脳死状態に陥る前の血清と脳死状態に陥った血清とが得られた。現在、これらを二次元電気泳動によって比較検討し、脳死特異的蛋白の検討を行っている。
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