我々は、物質的(生化学的)な検査が脳死判定の補助診断法となるか否かを検討してきた。14年度は、福井医科大学付属病院において脳死状態と判定された9例および、植物状態と診断された1例の血清中のNSE濃度、S-100蛋白濃度、および、CK-BB活性を測定した。対照として、脳神経外科患者21例からの血清を同様に測定した。結果は、脳死患者群では、NSEは334.1(ng/ml)、S-100蛋白は22.6(μg/l)、CK-BBは6.1(IU/l)で、対照群[15.0(ng/ml)、0.25(μg/l)、0.81(IU/l)]と比べ有意に高値であった。植物状態の患者血清では、経過中NSEが最大27.2(ng/ml)まで上昇したが、S-100蛋白とCK-BBは経過中、増加は見られなかった。15年度には、同一患者において、脳死前後の血清が得られた一症例について、二次元電気泳動を行い、前後での蛋白スポットの差を検討した。その結果、脳死後新たに出現するあるいは増強するスポットの他に、脳死後には消失ないしは減弱するスポットも見られた。これらの結果は、第50回日本臨床検査医学会総会(広島)で発表した。その後、新たに出現したスポット6つと消失したスポット2つについて、還元アルキル化、trypsin処理、脱塩精製後、CHCAをマトリックスとしたMALDI-TOFによる質量分析を行い、Mascot Searchによって蛋白同定を試みた。その結果、新たに出現したスポットは、溶血などによると思われるヘモグロビンやミオグロビンの他に、アンチトリプシンなどがヒットした。また、消失したスポットは、ハプトグロビンおよびプロアポプロテインと思われた。以上、血清中のS-100蛋白などを測定することは脳死判定の補助診断となることを明らかにした、また、脳死に特異的と思われる候補蛋白質を検出した。
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