研究概要 |
我々は最近、新規の尿中ポリアミン成分としてジアセチルスペルミン(DiAcSpm)およびジアセチルスペルミジン(DiAcSpd)をヒト尿中に見出し、それらが悪性腫瘍の病勢を示す指標として優れた特性を示すことを示唆する結果を得た。本研究は多数の臨床検体の測定を通じてこのことを実証し、ジアセチルポリアミンの腫瘍マーカーとしての臨床応用をはかることを目的として遂行されている。本年度は特に、大腸癌の多数の症例について尿中DiAcSpm値を測定し、腫瘍マーカーとしてすでに大腸癌の臨床で多用されている血清CEAおよび血清CA19-9値と比較した。東京都立駒込病院で治療を受けた大腸癌患者292名について検査した結果、DiAcSpm, CEA, CA19-9の陽性率はそれぞれ72.9%,37.7%,15.4%でありDiAcSpmは既存のマーカーと比較して有意に高い検出感度を示すことが明らかになった。また、2001年2月以前に同病院で手術を施行し、経過を観察することができた99例の症例について、手術前のdiAcSpmレベルが基準値(健常者平均値+2SD)の3倍を超える患者群と3倍未満の患者群の生存曲線を比較したところ、高値群の予後は有意に不良であった。このことはDiAcSpmが大腸がんの病勢を示す新たなマーカーとして有用であることを示すものである。これらの結果に基づき、我々はさらに長期にわたる患者の経過とマーカー値の変動の関係について検討を進めている。我々はまた、ジアセチルポリアミンの新しい測定法についても研究を進め、単クローン抗体および妨害ポリアミン成分の酵素による分解を利用した酵素免疫法による簡便な測定系、および、質量分析法によるDiAcSpmの測定法を開発した。後者は特に、組織中のDiAcSpm含量を正確に測定するための方法として有用であると考えられる。
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