リスクマネジメントの観点から、針刺し事故発生時には事故報告書を提出することは重要である。しかし事故を起こした者にとって、事故を報告する際には何らかの心理的葛藤が生じる。そこで針刺し事故報告の意思決定に関する要因を探ることを目的に、本年度は針刺しをした看護師に対する面接調査を行った。 3箇所の医療施設において13・14年度に針刺しをした看護師14名に対して、針刺し事故時の状況、事故報告に対する認識、事故後の経過について面接調査を行い、針刺し事故報告の意思決定に関する要因について分析した。面接に当たっては、先ず看護管理者から当事者に研究の主旨を説明してもらい同意が得られた後に、研究者が会って対象者に研究の主旨や拒否してもかまわないことなどを説明して書類による同意を得た。 針刺し事故を起こした直後はどの対象者もショックと自分の行動に対する後悔を強く感じていたことが示された。特に臨床経験年数の浅い看護師ではそのショックのため、周りの人が気づいて事故報告につながった人が少なくなかった。事故報告をした理由としては、報告しなければならないという規則があるから、自分の経験が業務改善や教育につながるからという意見があったが、全員が血液媒介による感染症に対する不安を挙げていた。これまでにも針刺し事故を経験した看護師が数名いたが、患者が検査によって感染症がないことがわかっていたときには報告しなかったという事実も示された。 また全員が事故報告書は書きたくないと思っており、その理由としては針刺し事故後という精神的にきつい時期であることや自分のミスと思われるような感じがすることが挙げられていた。自分自身への感染の恐れや不安がある場合には確実に報告される可能性が示されたが、事故による精神面への影響などを考えて、精神面のフォローや事故報告書を記載する時期などについて考慮することが必要であろう。
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