研究概要 |
最終年度に当たる本年度は、一・二年目に蒐集した資料(江戸期にオランダ商館医として来日したKaempfer, Thunberg, Sieboldの著述にかかる日本伝統医学、博物学関連資料)の整理を行うとともに、ドイツ、フランスにおける日本伝統医学関係資料の整理を試みた。 スウェーデンウプサラ大学が所蔵するThunberg関連資料については、同大学進化学研究所植物部門所蔵のモグサ標本(Artemisia Vulgaris, Artemisia Japonica)の調査を行い、その写真画像を得た。またThunbergが帰国後、弟子Hallmanの学位論文として1782年に執筆した灸治療関連論文の原本を入手し、現在、同論文(ラテン語)の翻訳と、Kaempferが執筆した『廻国奇観』所収の鍼灸関係論文との比較を試みている。またThunbergの師であり、新しい植物の分類法を創始した植物学者Carl von Linneのラップランド探検記中に、Sami(ラップランド人)の伝統的な医療技術として灸に類似した治療法が紹介されており、リンネがこれを「Moxa」と呼んでいたこと(使用植物はヨモギではなく、別植物)などが明らかになった。 またErwin von Bealtzが草津温泉にて撮影した写真の中に、ハンセン病患者への施灸を示すものがあり、ドイツのリンデン博物館に現存する。ベルツはドイツの医学雑誌において、灸治療がハンセン病の治療に有効であることを示唆するコメントを残しているほか、漢方治療を行っている医師を対象にアンケートを実施し、彼等のハンセン病観も併せて紹介していることが分かった。 フランスにおける東アジア伝統医学の伝播状況については、江戸期に商館長として来日していたチチィングが日本から持ち帰った銅人形が東洋学者クロプラートに渡っていたことが判明した。
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