本研究では、中等・高等教育レベルでの地図指導を念頭に置いて、学生の地図読図能力を調査し、それに作用する個別的な地理的知識と一般的な空間的能力の影響を検討し、以下のような知見が得られた。 (1)大学入試問題を収集して地図を用いた出題内容を分析し、中等教育レベルでの地図指導で目標とされる地理的知識や技能について検討した。その結果、地図を用いた出題でも求められる読図能力や地理的知識にはいくつかの異なるタイプがあることがわかった。それは、(1)参考図(reference map)としての補助的利用、(2)地図に示された事象の分布に関する既有知識を問う設問、(3)地理的事象の分布パターンを個別の場所についての既有知識に基づいて推理させる設問、(4)地形図の読図問題にみられるように、既有知識よりも地図自体の内容と一般的知識とを総合して地図利用能力を試す設問、に大別される。 (2)パソコン上に表示した地形図上で地図記号を探索させ、注視点をマウスでトレースして反応時間を計測するプログラムを開発した。これを使って学生に地図記号探索課題を行ってもらい、読図手順の内省報告を記録した。その結果、記号探索という読図の初期段階でも、地図記号の典型的な立地に関する既有知識の影響が確かめられた。 (3)大学入試レベルの地理の試験問題で問われている地理的知識と地図読図能力を検討するために、過去に出題された入試問題を大学生に解いてもらい、解答手順に関する発話報告を用いて分析した。その結果、入試問題での地図の使用のされ方は、前述のような設問のタイプに応じて異なることがわかった。すなわち、(1)や(2)は既有の地理的知識と分布とを対応させることが要求されるのに対し、(3)はそこから推理する能力が試され、(4)では地理的な既有知識よりも一般的知識や地図利用能力が重要になることが明らかになった
|