本研究の目的は、最終氷期以降の現成サンゴ礁地形の形成過程を示す完新世の海面上昇を中心にした古環境の一部を、礁斜面に形成された沈水鍾乳洞内の二次生成物を分析することにより、明らかにしようとするものである。 この目的に従い、研究初年度である本年度は研究対象となる沈水鍾乳洞の予備的な現地調査を実施した。この調査は平成14年8月19日から28日までの10日間で実施された。対象となる沈水鍾乳洞は、琉球列島中部の久米島南部の礁斜面で3年前に発見された、現地で「ヒデンチガマ」と呼ばれている洞窟である。潜水調査では、鍾乳洞地形の確認と二次生成物の分布状態の確認を主に行った。この潜水調査の途中で、サンプル対象と考えていた二次生成物の鍾乳石が折れて、洞窟の底に落下しているものを確認した。この鍾乳石はその後、現地のダイビングショップ団体の方々の協力によって引き上げられ、分析用サンプルとして確保された。また、この現地調査の期間には沈水鍾乳洞の観察の他にも、海食洞と思われる洞窟の観察や、研究対象としている沈水鍾乳洞より深い場所に分布する低位の旧海水準の停滞時期に形成されたと思われる段丘地形を観察した。さらに、現世礁の全体像を把握するため、島の南部に位置するアーラ浜東部の陸上に分布する離水礁の観察・測量・年代測定試料の採取を行った。 現在、分析用サンプルとして確保された鍾乳石の表面分析を行っている。表面のクリーニングの後付着している生物の鑑定を国立科学博物館地学研究部に依頼した。その結果ゴカイやDimyella属という洞窟内だけで生育する二枚貝が確認され、表面に付いている生物化石が水中に没した洞内で付着したものであることが判明した。 今後、これらの付着した生物骨格や鍾乳石本体の年代測定を実施して、すでに得られている離水礁やボーリングによる年代測定データと合わせることにより、この地域の現成礁形成の古環境を復元していく予定である。
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