本研究の目的は、最終氷期以降の現成サンゴ礁地形の形成過程を示す、完新生の海面上昇を中心にした古環境の一部を、礁斜面に形成された沈水鍾乳洞内の二次生成物を分析することにより明らかにしようとするものである。 この目的に従い、研究の最終年度である本年度は調査対象としている沈水鍾乳洞の形成に関する調査・分析を主に2件行った。1件目は最終氷期以降の上昇する海面と鍾乳洞の関係を知る目的で行った、洞口より深い位置に分布するサンゴ礁の調査である。深度35mに位置する洞口より深い、深度40〜45mの段丘面上で現成サンゴ礁を発見したが、この深度では現在の造礁活動はほとんど行われておらず、鍾乳洞が海面上昇により水没する時期に形成された礁であると判断された。そこでこの礁の表面から年代測定用のサンゴ試料を採取し、分析を行った。その結果、この試料の形成年代はモダンであり、この数十年間に成長したもので、鍾乳洞の水没敷を示すものではないことが判明した。位置する深度や礁の規模から見て海面上昇期を示す試料が含まれていると考えられるが、それを採集する方法は今後の課題としたい。 2件目は鍾乳石の分析である。鍾乳石の形成期における温度変化という古環境を知る目的で、産業技術総合研究所の協力を得て、鍾乳石を構成する各層毎の酸素同位体比の分析を行った。鍾乳洞という安定した環境で成長した鍾乳石であるが、比較的長い時間においては一定の温度変化の存在が確認された。この変化は最終氷期以降の温暖化期の温度変化を示すものではないかと考えられるが、この鍾乳石の年代測定結果が出されていない現段階ではまだ研究成果として公表できない。鍾乳石の年代測定に関しては、国内のウラン系放射性同位元素の使用がかなり制限されていることから、今のところオーストラリアの大学(AIU)に依頼して実施する予定である。 以上のような研究状況から、年代の決定を最大の目標として今後もこの研究を継続して行う予定である。
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