研究概要 |
本研究は,私たちの身の回りで多用されているプラスチックスを,安全でしかも,自然界で持続的に生産され再生可能なグリーンポリマーに置き換えることを目指して,生分解性プラスチックが自動車内装材や玩具に利用可能かについて検討することを目的としている. 成型加工は容易であるが,耐熱性・耐衝撃性が低いポリ乳酸(poly-L-lactic acid : PLA)の,結晶状態と分子鎖の凝集状態をコントロールすることで,玩具や自動車内装部に利用できるような強度と熱安定性を持った素材にするため,初期結晶化過程についてX線回折測定および熱分析によって解析し,加熱成型・熱処理条件の変化によって生じる微細構造と物性の関係を検討した.試料は島津製作所のLACTY9030を用い,成型時の結晶化温度および結晶化時間を工業的に実用可能な生産ラインにおける制約の範囲内で定めた.結晶核の生成を促進する核剤の有無と濃度との効果を,リン酸金属塩系核剤とタルクについて検討した.核剤の添加によって初期結晶化過程で六方晶の結晶化が進行し,その後の熱処理により結晶密度が増加し,加重たわみ温度において実用化に耐えうる耐熱性が得られた.その反面,結晶密度の増加はポリ乳酸の耐衝撃性の低下を引き起こした.そこで,さらに他の生分解性プラスチック(ポリブチレンサクシネート)を添加すると耐衝撃性の改善も可能であることが認められた. 現在,1)製造過程で薬品類を一切使用せず,コスト的にも安価な物理的手法によって,どこまでの物性を創り出せるか,2)熱・光に対する安定性,3)玩具や内装材として視覚的・感性的に受け入れられるか,の評価にむけて検討を進めている.
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