研究概要 |
埋蔵ガラス質文化財の変質について,実試料を対象として現象の把握と機構の解明に関する研究を進めた.中性子放射化分析やラジオアイソトープ励起蛍光X線分析などの核的手法を,平安時代の遺構で出土したガラス製品の分析に適用し、化学組成や着色剤、風化による変質について検討した。 主成分元素の定量結果から,対象試料がカリ鉛ガラスで出来た遺物であることを示した。色調と微量元素も含めた諸元素の定量値を比較して,着色剤の種類なども明らかにした.さらに,変質により風化生成物に富むとみられる部分と元のガラス部分との分析値を比較し,変質による元素の出入りを調べた.主成分では,風化試料でAl、Caに富みKに乏い傾向が認められた。微量元素については,U、Th、As、Cr、Hf、Sc、Vや、希土類元素が多く含まれる傾向にあった。風化部分は親石元素に富む傾向にあることから、単に風化による元素の溶出だけでなく,埋蔵中に土壌からのガラス試料への濃集されたと考えられる。粉末X繰回折により風化生成物を同定した。鉛ガラスの場合、風化物生成中に鉛のリン酸塩や炭酸塩、硫酸塩が生成する可能性がある。今回の分析では,硫酸鉛(IV)の生成が認められた。しかし、炭酸塩については,炭酸カルシウムと思われるピークは検出されているが、炭酸鉛の生成は確認することが出来なかった。埋蔵環境中で鉛ガラスから一旦浸出した鉛やカルシウムが再びガラス表面に吸着し、水分を含んだ二酸化硫黄や二酸化炭素などのガスと反応しで硫酸塩や炭酸塩を生じたものと考えられる.
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