本年度は、以下の研究を行った。 1.比較教育史的アプローチとして、イギリスの第二次世界大戦前後と現在の中等教育段階における科学教育に関する資料収集と分析を行った。その際、科学教育の目的・目標と学習内容を中心に分析を行った。 その結果、イギリスでは1944年教育法を一つの契機として科学教育カリキュラム改革が実施され、それは同年齢層の上位25%を主に対象としたカリキュラム改革であり、学習内容も純粋科学が中心で当時の先端的な内容を入れる試みがなされていたことが明らかとなった。それに対し、現在の科学カリキュラムは、科学に対し高い能力を示す生徒や、逆に興味関心を持たない生徒にとって適切でなく科学的リテラシーの観点から科学教育全体の目的論と内容論の再考が求められていることが明らかとなった。 2.地域実態史的アプローチから、広島高等師範学校を中心とした第二次世界大戦期及び直後の科学特別教育(附属中学校および附属国民学校)のカリキュラムの特色について、同時期の一般科学カリキュラムと比較して分析を行った。 その結果、次のような特色が見られた。(1)理科(物象・生物)・算数(数学)・工作が重視されており、その中でも純粋科学ばかりではなく「科学技術」が意識されていたこと、(2)工作は今日の「ものつくり」の端緒とも考えられること、(3)高度な科学的知識に加え、科学的探究能力や論理的に理解する能力も極めて重視されていたこと、(4)科学技術教育に特化せず一般教養(他教科の学習)も重視されていたこと、(5)国民学校では英語も教えられていたこと、(6)科学者(広島文理科大学・高等師範学校教授)による授業が行われていたこと、などが明らかとなった。
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