題材論的方法と絵画療法的行為との関係に着目し、その共通性と相違性をあらわにして、両者の関連構造を究明したい。そうした視点から、「癒し」や浄化的な側面が、より濃厚に内在されているような題材をいくつか考案した。熟慮の末、絵画療法の課題としてこれまで安定した効果が指摘されてきた、「雨の中の私」「集団と私」、さらには今回新たに「イレギュラーの物語」を題材に設定し、平成14年度、健常者としての宮城教育大学学生、広島市立大学学生、宮城県認定講習参加者としての教員を対象として実践した。そのことによって、「絵画療法」と「題材論的方法」の美術的特質及び教育的作用の関係が、構造的に解明されることを目論んだ。いわば描画の社会的な役割における内容上の差を、制作体験的にそれぞれ明確にしようとしたのである。 その際、時間経過的には第一に絵画療法的制作を8分間内に、第二に題材論的方法に基づく制作を3時間内に行わせ、とりわけ絵画療法時のスケッチに現れると予定された心理的な葛藤や鬱積した感情が、その後における美術的活動に対してどのように作用したのか。いわば制作過程でこうした感情が基礎となるものの、時間的経過とともに質的にどのように変換され、あるいは充実することで美術的活動がいかに達成されるのかを究明した。画面に現れた主題形成や、その表現性に触発されて生じる美的内容が、制作者に見つめられることで生(価値を求める営みとしての生きること)の意味が感受されたと見られよう。美術的特質は作品にリアリティ感として現れることになるが、それに広く内在する教育的作用が大いに発揮されたのである。これが、浄化や癒しを専らとする絵画療法と大きく異なる点で、題材論的方法に認められる社会的な意義といえよう。
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