研究概要 |
情報セキュリティの基盤として,暗号は必要不可欠な技術である.これまでの暗号技術では,一般に情報を秘匿するための暗号化と秘匿された情報を元に戻す復号化のいずれの過程にも計算機が利用される.これに対して視覚的暗号とは,復号化にあたって計算機を必要とせず,人間が目で見るだけで復号化できる暗号である.たとえば,「砂の嵐」状のランダムなOHPシートを重ねると,そこから文字が浮び上がるようなものがある.本研究では重ねられるOHPシートと重ねて得られる結果として,一般的な画像(自然画像)を扱えるものを目指す.具体的には中間階調や色を扱えることが必要となるが,今年度は中間階調の実現法について考察した. 中間階調の実現法としてハーフトーニング(面積階調法)が考えられる.すなわち画像中の1ピクセルを細かなサブピクセルに分割して,黒白のサブピクセルの個数比(黒白の面積比)によって中間階調が実現できる.しかし,ハーフトーニングを単純に利用するだけでは,サブピクセルの個数によって階調が離散化されるだけでなく,利用可能な階調数にも制約が生じる.特に,サブピクセル数を増やせば個々のサブピクセルは小さくなり,2枚のOHPシートの位置を合わせることが非常に困難になる.すなわち,より多くの中間階調を実現するとともに,位置合わせの問題を解決する必要がある. 従来の研究ではハーフトーニングにドット分散型を利用していた.すなわち1ピクセルをランダムなサブピクセルのパターンによって実現していた.したがって,サブピクセル分だけズレが生じると合成画像が実現できなくなる.一方,ドット集中型のハーフトーニングはドットの集まったディスクの大きさで階調を実現するが,ディスクの大きさという1自由度しかないために合成画像の輝度を制御するための自由度が本質的に欠けている.そこで本研究では,白黒の2値に加えて,1つだけグレー値を許すことにより.自由度を増して合成画像の輝度を実現できるようにした.従来では位置合わせの問題から3×3サブピクセルが事実上の限界であったが,本研究の手法によって解像度の制約がなくなり,事実上連続階調のグレー画像が実現できるようになった.
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