研究概要 |
本研究は,人が発声行為を行う際の筋肉の動きに着目し,筋肉の活動状況を表す指標の一つである表面筋電に基づいて発声内容を推定することを目指している.今年度の研究で行った内容とそこから得られた知見について次に示す. 1.日本語母音の認識を中心として,口唇形状の情報を得るための計測位置の検討を行った.通常の発声ではそれほど大きくは口を動かすことはないため,上唇や口角の挙上よりも下唇や口角の下制活動を捉えることが重要であることを確認し,そのための計測位置の提案を行った.提案位置での計測波形から,母音認識に有効な情報が得られているように見受けられた. 2.本研究の有効性を左右する仮説「有声でも無声でも類似した筋活動が生じる」の検証を行った.計測実験の結果,本仮説が適切であると言えること,また,発声の強弱などの特徴も表面筋電波形に反映されることが確認できた.特に後者は,口唇形状の画像処理による認識よりも本手法の方が認識に有用な情報をより多く得られることを示している. 3.口唇形状だけでは特に子音認識に困難を極めるため,認識処理に供するために舌や声帯の活動の有無だけでも得ることを試みて,頸部の筋電計測位置の提案を行った.提案位置で舌の動きなどに呼応した信号が観測され,認識に有効に寄与しうるものと思われた. 4.表面筋電波形は多量のノイズ混入が避けられないため,認識処理のためにノイズを低減する手法の導入を試みた.同手法により,効果的にノイズを低減できることが確認された.また,同手法の考え方を応用して連続発声時波形のセグメンテーションを試み,有効な手法へと発展しうるとの感触を得た.
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