研究概要 |
カーボン・ナノチューブを用いてカソードを構成し,真空中にカソードを配置し,太陽光を集光してカソードに照射する。カーボン・ナノチューブは黒体であるので,太陽光のエネルギーを吸収し,カソードの温度が数百度から1000度付近まで上昇する。真空中に配置したアノードに正の電圧を加え,アノードとカソード間に電界が発生する。カーボン・ナノチューブは極めて細いので,その先端部には電界が集中し,太陽光の照射によりエネルギーを吸収した電子が真空中に放出される。これを電子のエミッションといい,放出された電子はコレクタに収集される。従って,過剰電子となるコレクタは負に帯電し,電子を放出したカソードは正電荷に帯電する。。その結果として,カソードを正電極とし,コレクタを負電極とする電圧が発生し,正電極と負電極の間に負荷を接続することにより,電気エネルギーを外部に取り出すことが可能になる。 カソードからの電子放出を良好にするために,カーボン・ナノチューブをカソード基板に垂直に配置することが必要である。本研究では,鉄,コバルト,ニッケルなどの触媒を用いて炭素系化合物を含むガスを700度位に加熱し,カーボンを析出することによりカーボン・ナノチューブを製造する。製造したカーボン・ナノチューブとカソード基板との電気的な接続を良好にするためにメタルを用いる。製作したカソードから放出される電子を測定し,良好な電子放出特性を得た。さらに,カーボン・ナノチューブを太陽光により加熱することにより,印加電圧が数ボルトという低電圧においても電子放出を良好に行うことが可能になった。 真空中でカソードから放出された電子がアノードに衝突しないように,絶縁材料を配置し,コレクタに全ての電子が吸収されるようにする。絶縁材料としてマイカと2酸化シリコンを用いた。これらの処置を行うことにより,太陽光のエネルギーの約40%が電気エネルギーに変換されることが実験的に確認された。さらに,カソードの構造およびカーボン・ナノチューブを最適化することにより電気エネルギーへの変換効率が向上する可能性がある。理論的なエネルギー変換効率は80%以上になり,将来のエネルギー源として非常に重要であることが実験的にも確認された。今後は,規模を大きくして実用性のあるエネルギー変換装置を開発する。
|