本研究では、結晶構造が環状構造あるいはネットワーク構造からなり、構造中に比較的大きな空洞をもつ化合物の中性子照射挙動及び照射欠陥の回復過程を、実際に中性子照射した物質について高分解能電子顕微鏡観察、ラマン分光法、X線回折を用いて検討することを目的としている。 本年度は、すでに日本原子力研究所の材料試験炉で中性子照射したダイヤモンド(照射量5.3x10^<24>n/m^2(E>0.1MeV)、温度380℃および8.05x10^<24>n/m^2、725℃の2条件)及び核燃料サイクル開発機構の高速実験炉常陽により照射した窒化ケイ素(最大照射量3.3x10^<26>n/m^2(E>0.1MeV)について、長さ測定、格子定数測定、及び熱拡散率測定を行った。その結果、ダイヤモンドの、380℃照射試料では、400℃から1200℃にかけ格子定数の連続的な回復が見られ、さらに1300℃以上で照射以前の値に急激に変化した。725℃照射では、照射温度以上でわずかに回復し、1300℃以上で急激な回復が見られた。また、未照射試料には、1333cm^<-1>に明瞭なsp^3軌道に起因するダイヤモンドの極めて強い鋭いラマンピークと1500cm^<-1>付近に弱いブロードなピークが見られるが、380℃照射の後では1333cm^<-1>のピークが低波数側に大きくシフトし、また形状もブロードで、非対称になった。その他に、1620cm^<-1>付近にも弱いブロードなピークが観察された。725℃照射では、1333cm^<-1>付近のピークは、波数はわずかにシフトし強度が低下したがはっきり存在し、また1500cm^<-1>付近に広いピークが観察された。試料には、電子顕微鏡観察では、照射に起因する集合欠陥は観察されなかった。窒化ケイ素のスウェリングは、照射温度が600℃程度の時は0.4%程度、照射温度が730℃程度では、0.15%と種々のセラミックスに比較して、極めて小さいことが明らかとなった。この窒化ケイ素には、C軸に平行に多数の格子間型転位ループが生成していることが判明した。
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