本研究では、環境中に流出しうる金属ポルフィリンの例として石油ポルフィリンをとりあげ、特に原油や重油中の存在量が多いバナジウムポルフィリンに注目してきた. (1)石油ポルフィリン標品の調製:原油中に微量(数十〜数百ppm)含まれているバナジウムポルフィリンと数〜数十ppm含まれているニッケルポルフィリンを単離して研究用標品として調製するための分離・精製法の高効率化に取り組んだ.主に液体クロマトグラフィー分離条件の最適化を図った結果、原油中のバナジウムポルフィリンおよびニッケルポルフィリンの各22種を分離し、そのマススペクトルからポルフィリンの化学構造を推定することに成功した. (2)高分解能な石油ポルフィリン分析法の開発:高速液体クロマトグラフィーを補足する石油ポルフィリンの高分解能分離分析法としてのキャピラリー電気泳動法(CZE)の有用性を探るため、数種の石油ポルフィリンモデル化合物(バナジウムエチオポルフィリンなど)を対象として分離挙動に及ぼす溶液組成の影響を詳細に検討した.その結果、CZEで極めて高疎水性な石油ポルフィリンの分離が可能になる特殊な泳動液組成を見出すのに成功した. (3)石油ポルフィリンの分配係数:数種の石油ポルフィリンモデル化合物を対象として、化学物質の生体への取り込みを議論する上で有用な物理化学量であるオクタノール/水間分配係数(Log Pow値)の算出を試みた.逆相液体クロマトグラフィーでのリテンションファクターをベースとする相関法を適用することにより、Log Pow値として5〜10の範囲内の値が得られた.この結果から、石油ポルフィリンが水中から生物体内に移行し蓄積される可能性が高いとする当初予想が、物性データによって支持された.
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