本研究は、樹木中の年輪に沿った微量元素および放射能測定を行うことにより、過去の樹木が生育していた環境を探索できるかどうかを調べる試みである。試料としてイチョウとスギを用い、木口材の中心から外側に向けて切り分け、各4〜8gの材を灰化させて放射化分析に供した。照射は日本原子力研究所研究炉、JRR-3Mを用い、短時間照射(5秒)ならびに長時間照射(20分)によって検出される複数の元素をγ線スペクトロメトリにより非破壊同時定量を行った。その結果、短時間照射ではNa、Mg、Al、K、Ca、Mnが定量可能であり、長時間照射ではFe、Co、Sn、Ru、Rbなどを検出することができた。また、標準試料をサンプルと同時に照射することにより、各元素の同時定量が可能となった。これらの元素を樹木の年輪に沿ってプロットすると、殆どの元素が心材部と辺材部において濃度が大きく異なることが示されたが、Mg、Ca、Coなどは辺材部の濃度が心材部と比較して非常に高くなることが示された。一方、天然に存在する微量放射能測定では、まずGe半導体検出器の整備を行った。測定時のバックグラウンド値をいかに低くするかが重要なポイントであったため、測定プローブの回りに無酸素銅ならびにプラスチックの遮蔽を施し、また測定チェインバー内には測定器を冷却するため常時使用している液体窒素から出てくる窒素ガスを導入するなど種々の工夫を行った。また、天然に存在する放射性核種の中ではウラン系列の核種をターゲットに測定を行っているため、エネルギーの低いγ線を測定するため、検出器の上部はベリリウムの薄窓を取り付けた。樹木の年輪に存在する、これら微量元素ならびに天然の微弱放射能を測定することにより、過去の生育環境を評価した。その成果はHayashi et al.(2003)で報告した。
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