本研究は、土壌有機物を、植物遺体に近い構造を持つ新しい画分から古い画分へと順次分画する方法を確立し、各画分の生成年代および化学構造を分析することで、数十年〜数百年レベルでの土壌圏における有機物の経時的な化学構造変化を明らかにすることを目的としている。本年度は、対象とする新潟県中頸城郡燕埋没土壌を採取し、腐植物質(腐植酸)の大量抽出・精製を行うとともに、数種の土壌を用いて、生成後年数と対応して増大すると考えられる黒色度の違いを目安とした腐植酸の分画法の確立を行った。植物根等新しい有機物を除去するために比重1.6の塩化亜鉛溶液を用いた前処理を行うことで、燕土壌から^<14>C年代1662±28yBPの腐植酸を得ることに成功した。腐植酸の分画には0.01MNaOH-エタノールまたはアセトン系における沈殿法を適用し、溶質濃度(2〜4mgL^<-1>)、静置時間(16時間)、イオン強度(NaCl 10gL^<-1>添加)を調整することで、土壌に関わらず、黒色度の高い成分から低い成分へと順次沈殿分画できる条件を見出した。また、高い極性で沈殿する成分ほどδ^<13>Cが高いことがわかった。このことは、δ^<13>Cの上昇が、年数の経過、黒色度の増大と平行して起こっている可能性を示唆した。しかしながら、同一断面の生成年代が異なる層から分離したbulk腐植酸の比較では、各層表層時の植生の違いがδ^<13>C値に影響し、年数、黒色度との関係を解析することは困難であった。^<13>C-NMRおよびIRによる化学構造の分析結果から、沈殿法で得られた各細画分は、芳香環構造の割合には大きな違いはないが、黒色度が低く、低い極性で沈殿する画分ほど、メトキシル基あるいはフェノール性水酸基の含有率が高いことが明らかになった。このことから、低い極性で沈殿する画分ほどリグニン構造が残存している、すなわち生成後年数が短いことが推察された。
|