本研究は、土壌有機物を植物遺体に近い構造を持つ新しい画分から古い画分へと順次分画する方法を確立し、各画分の生成年代および化学構造を分析することで、数十年〜数百年レベルでの土壌圏における有機物の経時的な化学構造変化を明らかにすることを目的とした。今年度は、初年度に確立した方法で、新潟県中頸城郡燕埋没土壌から抽出した腐植物質(腐植酸)を、黒色度の高い成分から低い成分へと順次分画し、各画分の^<14>C生成年代をタンデトロンを用いて測定した。その結果、黒色度の2種の指標と^<14>C年代との間に有意な相関を見つけることに成功した。確認のために、静岡県御殿場市湯船原埋没土壌について同様の実験を行い、燕土壌と同様黒色度の指標と^<14>C年代との間に有意な相関を認めた。両土壌の生成年代は約1000年異なったが、腐植酸の黒色度の増大にかかる年数は土壌間で類似しており、同一の式を用いて推定できることが明らかになった。導いた式により、腐植酸が最も安定な形態(A型)になるまで120年、また、黒色度が最高値に達するまで<400年かかると見積もられた。しかしながら、腐植酸細画分の黒色度と^<13>C CPMAS NMRに基づく炭素官能基組成との間には、土壌間の比較で認められてきた関係(黒色度の増大に伴うアルキルC、O-アルキルCの減少および芳香族C、カルボニルCの増加)が認められず、腐植酸の経時的構造変化を芳香族成分の濃縮に集約することはできなかった。したがって、今後、さらに機構の異なる複数の分画法を組み合わせて腐植酸細画分の精製を図り、構造と生成後年数との関係をより具体的に評価する必要がある。また、腐植酸細画分の炭素安定同位体比(δ^<13>C)と^<14>C年代との間にも有意な相関関係が存在い古い腐植酸ほどδ^<13>Cが高いことを明らかにした。この関係から、例えば一時的に大きな植生変化があった年代の推定が可能であることを示した。
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