島根県鹿足郡津和野町、邑智郡大和村の温泉源近傍と島根県太田市の三瓶山旧噴火口周辺(鳥地獄)を調査サイトとし、泉源からの距離に応じた数地点においてCO2濃度を測定し、CO2濃度分布マップを昨年の結果と統合して補強・作成した。長期間のCO2濃度の変化を見るために総合気象観測装置を鳥地獄サイトに設置しデータを連続記録した。CO2の空間分布に基づき、土壌・自然植生サンプルを採取し、炭素同位体分別値、CN比を求めると、泉源近傍のCO2濃度の高い地点において植物体の同位体分別値が低く、気孔が閉じている傾向にあることが示唆された。気孔密度の分布と泉源からの距離との関係を求めると、泉源近傍で気孔密度が粗となる傾向にあった。従って、気孔開度だけでなく植物体の形態形成も高CO2の影響を受けて変化していたと見なされる。一方、CN比は大きくは異ならないものの、泉源近くではややCN比が大きい傾向を示した。これは高いCO2濃度によって炭素含量が高まった結果であると考えられるが、その変化原因については、さらに調査地点を増やし、CO2制御実験と組み合わせてその原因を詳細に明らかにする必要があろう。 温度勾配温室では、ガス濃度を大気の2倍程度に高めるためには、ガス放出量(濃度)が不足している事が昨年明らかとなったため、小規模なトンネル温室により温度とガス濃度を変化させるよう試みた。しかしながら、高温度の制御のために換気量を増加させると、炭酸ガス濃度が低下し、いずれの項目についても恒常的な条件で実験を行うには、非常に高濃度のCO2ガスが必要となる問題が判明した。今後は、実験条件に基づいて必要なガス濃度、換気量を予め見積もり、必要となる濃度のガスを供給可能なサイトを選定するなどの工夫が必要となろう。 以上から、自然植生を利用した高CO2ガスの影響評価には植生の差違や立地の影響などがあり、土壌成分への影響解析には問題が多いものの、植物の形態・生態反応の評価には利用可能であると見なされた。一方、温泉ガスはガス濃度と供給量が低く、施設への利用には考慮すべき問題が多い。
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