研究概要 |
合成洗剤の普及に伴い,1960年代より河川の界面活性剤による汚染が顕在化し,多くの社会的関心を集めてきた。一方,人間活動に伴う生物多様性の減少も国民的な関心を呼んでいるが,河川は水生植物の減少が問題となっている生態系であり,その原因究明と保全が急務となっている。しかし,この水生植物の減少を界面活性剤汚染と関連づける研究は行われていない。そこで本研究は,水生植物種子の水散布に対する界面活性剤の影響を絶滅危惧種と普通種間で比較し,絶滅危惧植物種の種子散布が顕著に界面活性剤の影響を受けるかどうかを検証する。多種類の水生植物の種子を用い,蒸留水と1mg/Lの界面活性剤(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩;LAS)溶液中にそれぞれ種子50粒を入れ,5秒間撹拌した後24時間放置して沈水種子を数え,平均種子沈水率を求めた(N=5)。絶滅危惧種としてアギナシ・オオアブノメ・カワヂシャ・スブタ・タコノアシ・マルバオモダカ・ミズアオイ(2産地)・ミクリ・ミズネコノオの9種を用い,普通種として27種(このうち2種は2産地)を用いた。その結果,以下のことが明らかとなった。多くの水生植物の種子が蒸留水中で浮遊し,水散布特性を示した。しかし,アギナシ・カワヂシャ(準絶滅危惧>とマルバオモダカ・ミズアオイ(絶滅危惧II類)の種子は,6割以上が蒸留水中で沈んだ。タコノアシ(絶滅危惧II類)とキカシグサ・ヒデリコ(普通種)のみで,LAS溶液中の沈水率が蒸留水より有意に増加した。したがって,絶滅危惧植物には種子浮遊性の低いものが見られたが,絶滅危惧植物でとくに顕著な界面活性剤の影響は検出されなかった。
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