研究概要 |
合成洗剤の普及に伴い,1960年代より河川の界面活注剤による汚染が顕在化し,多くの社会的関心を集めてきた。一方,人間活動に伴う生物多様性の減少も国民的な関心を呼んでいるが,河川は水生植物の減少が問題となっている生態系であり,その原因究明と保全が急務となっている。しかし,この水生植物の減少を界面活性剤汚染と関連づける研究は行われていない。そこで本研究は,水生植物種子の水散布に対する界面活性剤の影響を絶滅危惧種と普通種間で比較し,絶滅危惧植物種の種子散布が顕著に界面活性剤の影響を受けるかどうかを検証する。本年度は,茨城県の小貝川流域に分布する絶滅危惧植物5種(シムラニンジン,キタミソウ,チョウジソウ,ハナムグラ,ミゾコウジュ)と普通植物5種(ウマスゲ,カサスゲ,ミコシガヤ,ヤエムグラ,ヤガミスゲ)の種子を採取し,純水と1mg/Lの界面活性剤(LAS)溶液および炭酸カリウム溶液を用いて種子沈水試験を行った結果,普通植物の多くが水散布特性を示した。しかし,絶滅危惧植物には種子浮遊性の低いものが含まれることが明らかにされたものの,絶滅危惧植物でとくに顕著である界面活性剤の影響は検出されなかった。これらの結果は昨年度の結果と一致しており,先行研究で絶滅危惧植物タコノアシの種子に見られた界面活性剤による水散布の抑制は,他の植物では稀である可能性が高い。一方,絶滅危惧植物には種子浮遊性の低い種が多く見られ,種子散布力の低さが減少要因の一つになっている可能性が示唆される。
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