研究概要 |
本研究は,真核生物鞭毛の内部構造(軸糸)を構成する蛋白質の動態を直接観察することを目的にしている.軸糸の周辺微小管上には,ダイニン内腕,外腕,スポーク,などといった構造が規則正しく配列している.そのような精巧な構造がどのように形成され,維持されているかは,未解明の大きな問題である.これまでこの軸糸構造は構造全体が解体再生する場合をのぞいて,きわめて安定に保持されていると考えられてきたが,最近,定常状態においても蛋白質がダイナミックにターンオーバーしているという複数の実験結果が報告されはじめた.このことが事実であるとすると,鞭毛構築機構は再考を迫られることになる.しかし,これらの知見は単離・固定した試料の解析に基づくもので,そのダイナミックな過程を直接検証した研究はまだない.本研究では,クラミドモナス生細胞に蛍光標識した軸糸蛋白質を電気穿孔法で導入して鞭毛軸糸内に取り込ませるという,以前我々が開発した方法を利用し,蛍光退色・回復実験を行った.すなわち,蛍光標識蛋白質をとりこんで蛍光性になった鞭毛軸糸の小部分を光退色させ,その部位の蛍光が時間とともに回復するか否かを検出するという実験である.その過程で,まず,細胞の観察法と光退色条件を確立して,単一鞭毛における蛍光強度変化を2時間以上にわたって観察することに成功した.さらに,その方法により,軸糸蛋白質であるアクチンがゆっくりターンオーバーしていることを示す結果を得た.鞭毛内のアクチンは主にダイニン内腕のサブユニットとして存在するので,このことはダイニン内腕が生細胞の鞭毛内で動的にターンオーバーしていることを示唆する.鞭毛の部位の違いによってそのターンオーバー速度がどのように変化するかを定量化すること,および,他の軸糸蛋白質も同様にターンオーバーしているか否かを決定することが次年度の課題である.
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