研究概要 |
本研究の目的は,キャピラリー電気泳動システムを用いて,バクテリア生体分子モーターのモデルを構築することにある.べん毛モーターの回転メカニズムの解明のためには,入力であるイオンの流れと,出力である回転運動とを正確に計測し,その対応関係を明確にすることが重要である.しかしながら,入力であるイオンの流れはその計測が非常に困難であり,正確に計測することは困難である. そこで,我々は菌体内イオン濃度を任意に制御可能な系の構築を目指した.菌体内イオン濃度を制御するため,菌体内部に直接プローブを挿入し,電気泳動効果によりプローブ内にあらかじめ挿入されている任意の溶液を菌体内部に挿入,もしくは菌体内部の溶液をプローブ内に取り込めるシステムの構築を試みた. このシステムの構築するためには,菌体自体がいままでにプローブ操作で行われているものに比べて非常に小さい(通常は数百マイクロメートル程度)ことに加え,バクテリアの細胞壁は,内膜,ペプチドグリカン膜,外膜と非常に強固なものである.そのため,我々はまず,細胞外膜の除去,細胞内菌体濃度の簡易計測のシステムの構築から始めた. 細胞外膜を除去することにより,リゾチームなどの溶菌試薬の投与を試みた.完全に外壁を溶解すると,べん毛モーター自体の機能に影響を与えるため,試薬濃度による菌体の形態変化とモーター回転との対応の計測を試みている.また,菌体内のイオン濃度に関しては,RIなどを用いた研究による報告も今までに数例あるが,それらの結果はまだ一致にいたってはいない.そこで我々は直接菌体を破壊して内部ナトリウム濃度を計測する方法と,ナトリウム濃度感受性蛍光試薬を用いて菌体内部のナトリウム濃度を計測する方法を試みている.菌体内部から取り出したナトリウム濃度の計測法は非常に困難であるが,得られた抽出液を別の生の菌体に作用させることにより,その運動速度からナトリウム濃度を逆算可能である.
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