我々は、細胞膜に数百分子の上皮成長因子(EGF)が結合すれば、すべての細胞でカルシウム応答が起こることを発見した。これは細胞表面に発現する受容体の数の1%以下である。さらに、この分子数の閾値は、細胞の大きさによらないことが分かった。このような入出力応答を可能にする分子機構を解明するために、EGF刺激を時間、空間、濃度制御して細胞に与える装置を開発した。装置を、1分子計測、細胞内カルシウム計測を同時におこなえる顕微鏡に組み込んだ。蛍光色素テトラメチルローダミンで1:1標識したEGFを細胞外に灌流し全反射蛍光顕微鏡で結合数を1分子計測した。画像解析アルゴリズムを自作し分子数を自動計測できるようにした。また、細胞内カルシウム濃度は蛍光指示薬(Fluo4)を用いて計測した。この方法で、細胞に与えるEGFを制御しながら、カルシウム応答を計測できるようになった。 同時計測の結果から、決まったEGF結合数により誘起される平均カルシウム濃度上昇は、結合数に依存して大きくなるが、細胞ごとのばらつきが大きく、一方、カルシウム応答が始まるまでの時間は、EGF結合数によらず一定であった。これは、EGF結合により確率的にON/OFFする反応が比較的少数並列に起こっていることを示唆している。細胞あたり300分子のEGF結合で半数の細胞にカルシウム応答が起こった。EGFは受容体の2量体化を誘起してカルシウム応答経路を動かすと考えられている。EGFの結合パターンの解析から、カルシウム応答確率は多量体形成して結合した分子数との相関が高く、単量体として結合した分子数との相関は低いことが分かった。多量体として結合した分子だけがカルシウム応答経路を動かすと仮定すると、半数の細胞に応答を引き起こす分子数は細胞あたり200分子と見積もられた。
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