蛋白質の合成と分解のバランスの制御は、細胞機能を維持するために重要である。このため蛋白質分解系の機能が破綻すると、細胞機能に異常を生じる。例えばガンや免疫疾患をはじめとした様々な病態が、蛋白質分解系の一つであるユビキチン系の機能が低下すると生じる。 ユビキチン系は、真核生物に普遍的に存在する蛋白質分解系である。このシステムは、分解すべき蛋白質(標的蛋白質)にユビキチン分子を共有結合(ユビキチン化)することによって、分解のシグナルを提示する。ここで、標的蛋白質の識別とユビキチン化を行う本体が、ユビキチンリガーゼである。細胞内には複数種のユビキチンリガーゼがあり、それぞれが特有の標的蛋白質のユビキチン化を担当している。この中で、ユビキチンリガーゼSCF(Skp1、Cdc53、F-box蛋白質からなる複合体;以下SCFと記載)は、酵母からヒトまで高度に保存されており、細胞分裂周期、発生・分化・転写制御など、細胞増殖の重要な側面の制御に関わることがわかってきた。したがって、SCFによる細胞機能制御を明らかにすることは、細胞増殖を総合的に理解する上で必須である。 このためには、まずSCFによるユビキチン化の標的蛋白質を明らかにし、次にその標的蛋白質がどのようなシグナルでユビキチン化されるのかについて明らかにする必要があるが、ユビキチン化の標的タンパク質についてはほとんど明らかにされていない。 本研究で、私はSCFの標的蛋白質を系統的に同定するための実験系の開発に成功した。この系を用いて、出芽酵母のSCFの新規な標的蛋白質を明らかにし、機能解析を行った。
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