研究概要 |
中心小体(鞭毛基部体)は細胞周期ごとに自己複製するという興味深い性質をもつ細胞内小器官だが,その構築過程についてはほとんど何もわかっていない.我々は鞭毛基部体を全く形成できないクラミドモナス突然変異株(bld10)を単離し,その変異遺伝子産物である新規の基部構成蛋白質の同定に成功した.これによって,クラミドモナスは基部体を欠失しても致死にはならず,基部体構築の遺伝学的解析が可能であることを示した.本研究は基部体の形成不全変異株をさらに多数単離し,構築機構解明の基盤を作ることを目的として行われている. これまでにinsertional mutagenesis法をもちいて約100,000株程度の変異体を作成し,基部体変異株が含まれる鞭毛欠失株のスクリーニングを進めている.今回は,mutagenesis後の細胞を液体培地に入れて容器の底に沈む細胞を集め,鞭毛欠失株スクリーニングの効率を高めた.これまでに得られた鞭毛欠失株は計77株である.うち少なくとも3株はbld10と同様に不等分裂するらしいことが明らかとなった.今後,これらの株の表現型を詳しく解析して鞭毛基部体変異株であるかどうかを調べるのと同時に,遺伝学的解析によってbld10と異なる変異株であることを確認する予定である. このスクリーニングと平行して,以前に得られた無鞭毛変異株のうち2F10と名付けた株の解析も行った.この株の変異遺伝子を同定したところ微小管モーター蛋白質であるキネシンIIの遺伝子を完全に欠失していることが判明した.クラミドモナスのキネシンIIは鞭毛形成と有糸分裂に関与するとされていた.しかし,今回得られたキネシンIIの完全欠失変異株2F10の分裂の様子を検討したところ,増殖速度,紡錘体の形状は野生型と同様であり,分裂には全く異常は見られなかった.従ってキネシンIIは鞭毛形成にのみ関与することが示された.
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