酵母ミトコンドリア内での異常タンパク質蓄積ストレスの発生に伴ってミトコンドリアが情報を発信し、恒常性維持のために細胞がストレス応答を示すのか?に着目し、研究を進めている。昨年度、異常タンパク質の蓄積によるミトコンドリアストレス系の確立を行い。プロセシング機能不全ミトコンドリアにおいて構造異常ミトコンドリアタンパク質の誘導系の確立を行なった。MPP(ミトコンドリアプロセシングペプチダーゼ)は、細胞質からミトコンドリア内に輸送されたタンパク質前駆体のプレ配列を特異的に認識して切断し、成熟体へと変換する。本研究で用いたMPPβサブユニットの活性中心にある73位のGluをGlnに変異させた不活性型MPP発現型酵母(ドミナントネガティブ型=DN型)では、細胞の成育が低下し、ミトコンドリア中に前駆体タンパク質が蓄積している。さらに、細胞のATP量、呼吸活性は低下している。よってDN型酵母では、ミトコンドリア内に前駆体タンパク質が蓄積することで、ミトコンドリアの機能が低下していると考えられる。 今年度はこのような細胞内ストレスに対する核からのミトコンドリア救助応答(分子シャペロンやタンパク質分解系の調節)について解析した。各種ミトコンドリアタンパク質、及び分子シャペロンやタンパク質分解系遺伝子のmRNA発現レベルをノーザンブロッティングにより解析した結果、プロセシング異常細胞ではミトコンドリア内に発現している分子シャペロン、Cpn10、Cpn60の発現量が野生型の約2.5倍に増加していた。一方、ミトコンドリア内の構成タンパク質には発現誘導の大きな増加は無く、また小胞体の分子シャペロンであるBipの発現変動も観察されなかった。よってプロセシング機能不全ミトコンドリアに対して特異的な分子救助応答の存在が予想される。今後はこのストレス系の情報伝達経路やその分子群を同定することが必要である。
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