研究課題
細胞間の認識や情報交換に重要な役割を担っている糖鎖の発現制御機構を解明するため、本年度は糖鎖関連遺伝子の発現を網羅的・同時的に解析できるシステムの構築を行なった。これまでに報告されている糖鎖関連遺伝子の大部分(105遺伝子)をクローニングし、そのDNA断片をナイロン膜に結合させることにより、cDNAマクロアレイを作製した。マウス各種組織(胎生12日の脳および、生後12週齡の脳、肝臓、腎臓)の放射能標識cDNAを用いて、ナイロン膜とハイブリダイゼーションすることにより、その組織における遺伝子発現量を解析した。その結果、RT-PCRと遜色ない感度を確保できたのに加え、定量性にも優れていることが判明した。さらに、我々が昨年度までに報告した2次元HPLCシステムによる網羅的N結合型糖鎖解析と組み合わせることにより、幾つかの新規な知見を得た。例えば、12週齡の脳や腎臓に特異的に発現するLewisX構造が、(LewisXを生合成できる)α1.3/4-フコース転移酵素の中でも、主にFUT9によって生合成されていることが判った。一方、cDNAマクロアレイシステムと2次元HPLCシステムとを、複数種類の細胞の集合体である組織ではなく、単一な株化細胞に応用することにより、N結合型糖鎖生合成の制御機構の解明を試みた。まず神経系細胞3種類とアストロサイト系細胞3種類を解析し、胎仔および成体脳のデータと比較することにより、脳の糖鎖パターンが単純に神経細胞・アストロサイトの糖鎖の合計ではないことが示唆された。また、これまで非常に複雑な生合成経路が考えられていたN結合型糖鎖が、(少なくとも株化細胞内では)比較的単純な経路で理解できることを示した。その上で、糖鎖発現量と糖鎖関連遺伝子発現量との相関係数を求めることで、これまでに想定されていなかった相関関係(例えば、グルコシダーゼI, IIやER-/Golgi-マンノシダーゼなど生合成初期の遺伝子発現の高い相関)を明らかにした。
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