研究概要 |
生物の多様な形態形成のメカニズムを遺伝子発現の調節機構から明らかにするために、これまで昆虫では使用されていない新しい方法、精子核移植法によりトランスジェニックコオロギを作製することを本研究の目的とし、下記の項目について本年度は実験を行なった。卵活性化法の確立:核移植を成功させるためには,卵の活性化を行う必要があるが,昆虫の場合にはそのメカニズムはほとんど解明されていない。しかし,低張溶液により活性化される例が多いので,まず低張溶液処理による活性化を試みた。その結果,低張処理によりエネルギッドの分裂を観察できた。しかし,核染色を行った結果,そのエネルギッドには核が含まれていないことがわかった。同様な現象は,正常な受精卵のDNA合成阻害剤を使用して,核分裂を阻害した場合にも観察できた。従って,エネルギッドの分裂は核からのシグナルではなく,細胞質からのシグナルによることがわかった。このことから,核分裂を誘導するシグナルを同定する必要があるが,その点については検討中である。核移植を検討するにあたり,除核法の検討をおこなった。コオロギの卵には中央に核があり,それを吸引して除核できることがわかった。除核後,発生途中の核をインジェクションしたが,発生は進行しなかった。そこで,ショウジョウバエなどで成功しているモザイク胚を作成することを試みた。移植された核は,数回分裂することを確認できた。さらに,その卵は少ない確率ながらハッチすることができた。そこで,アルビノ卵を用いて,モザイク胚を作製しているが,現在のところモザイクになった特徴は得られていない。さらに,精子核を単離し,同様にインジェクションをおこなったが,やはりモザイクになった特徴は得られていない。このように,通常行える核のインジェクションをおこなったが,残念ながら現在までに良い結果は得られていない。
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