間脳の神経組織構築のメカニズムの一端を明らかとするため、視蓋前域や視床で発現が認められるLIM/ホメオドメイン型転写因子lim1遺伝子の発現動態を指標に、小型魚類モデル動物、ゼブラフィッシュの突然変異体の表現型スクリーニングを行ってきた。われわれが新規に見い出した突然変異体hd706-05(視蓋前域と菱脳でのlim1遺伝子の発現が激減)について、本年度は組織化学的、分子形態学的手法を駆使してその表現型を詳細に解析した。前脳で発現する発生分化制御遺伝子群、脳領域マーカー遺伝子群の発現動態を探る目的で、神経系の領域化や細胞分化が進行する受精後16.5、24、28時間の発生段階の胚で、whole-mount in situ hybridization法を行った。lim1、fgf8、dlx2、pax6、hlx1、shh等の遺伝子について、二重染色in situ hybridization法も適用して遺伝子発現領域の重複性や相補性も検討しつつ解析したところ、以下の表現型が明らかになった。突然変異体hd706-05において、shhシグナル陽性のzona limitans intrathalamica(背側視床と腹側視床の境界領域)が後背側方に拡大する。終脳、間脳、後脳で発現が認められるdlx2遺伝子が、受精後16.5日の時点から間脳でのみ発現抑制され、この発現抑制領域に近接して腹後方がzona limitans intrathalamicaである。dlx2シグナル陽性の視床下部内の細胞集団が受精後28時間の時点で認められない。さらに、抗アセチル化チュブリン抗体によるwhole-mount免疫染色で神経細胞体や軸索を可視化したところ、hd706-05において前交連やpostoptic commissure等の前脳腹側の交連線維が正中線を越えることができない異常を見いだした。こうした一連の表現型解析の結果から間脳特異的なdlx2遺伝子の発現制御の異常が予想され、shh、lim1遺伝子の間脳での発現制御との関連にも注目して突然変異の原因遺伝子の候補の検索を進めている。
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