研究概要 |
マウスにおいて嗅覚受容体遺伝子は一千種類に及ぶ類似遺伝子からなる多重遺伝子群を構成し、複数の染色体上にクラスターをなして存在する。個々の嗅神経細胞においては、これら遺伝子群の中から一種類の受容体遺伝子が選択的に活性化される。また、嗅神経細胞の嗅球への投射に際しては、発現している嗅覚受容体の種類に対応して、嗅球の表面に並んでいる約2千個の糸球と呼ばれる構造体のうち特定の糸球に投射がおこる。したがって、個々の嗅神経細胞は、細胞の分化に伴い自己の発現すべき受容体遺伝子を約一千ある遺伝子のうちから一つ選択し、且つ、選択した受容体遺伝子に従い、軸索の投射すべきターゲットを約2千の糸球のうちから一つ選択する。このように選択された受容体と投射先が、個々の嗅神経細胞の"アイデンティティー"を確立すると考えられる。この際、OR遺伝子の染色体上でのlinkageと嗅神経細胞の投射先のlinkageに相関のあることが示されており、進化の過程でOR遺伝子がどの様にしてリガンドや軸索投射の特異性を維持しながら、現在のクラスターを形成してきたのかも極めて興味深い問題となっている。本研究では、この嗅神経細胞のアイデンティティー決定の分子機構を解明することを目指し、ヒト及びマウスのOR遺伝子の構造を比較することによりこの問題に取り組んだ。その結果、OR遺伝子が進化の過程で遺伝子変換(gene conversion)を起こし、リガンドの特異性を維持してきた可能性を示すデータを得た。遺伝子変換は嗅覚系の進化を考える上で今後重要なファクターになると考えられる(Nagawa et al. Gene 292,73-80,2002)。
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