近年、成熟動物でも中枢神経組織に神経に分化しうる神経幹細胞の存在が示されてきた。神経幹細胞が神経回路網の再構成に関わることが示されれば、神経幹細胞の増殖・分化の誘導、あるいは神経幹細胞の補充により神経変性疾患の治療が可能となろう。しかし、神経幹細胞の機能は謎に包まれたままである。そこで本研究では、優れた記憶学習パラダイムとして申請者らが解析してきたフェロモン記憶の形成、維持、消去に神経幹細胞が如何に関わるかを明らかにすることを目指して本研究を行った。 1.可視化した神経幹細胞の形態及び機能の解析 分裂中の細胞だけを標識する緑色蛍光タンパクのレトロウィルス発現ベクター(NIT-GFP)を作成した。今後、この濃縮レトロウィルスストックをマウス脳室下帯に注入し、注入48時間後及び4週間後にマウスを屠殺し、生きた嗅球スライス標本を調製する。緑色蛍光を発する細胞の形態を共焦点レーザー顕微鏡で解析するとともに、その細胞からホールセル記録を行い、電気生理学的特性(静止膜電位、入力抵抗、時定数、膜容量、自発発火活動、興奮性シナプス後電流EPSC等)を調べる予定である。 2.神経幹細胞が特異的に除去されたトランスジェニックマウスの記憶・学習能の解析 Immunotoxin系による神経幹細胞特異的除去を可能にするトランスジェニックマウスを用いて、特定の時期及び場所において神経幹細胞の特異的除去処置を受けたマウスの記憶・学習能を解析する予定であるが、現在このトランスジェニックマウスが作成され、次のステップの解析が可能になった。
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