研究概要 |
近年、分子の網羅的な探索にはアフィメトリクス社のGeneChipがよく利用されているが、その後のin situ hybridizationによるスクリーニングや機能解析には個々の因子を個別にクローニングする必要があり、多大な労力を必要とする。そこで我々は、独自にPerl Scriptプログラムを作成して、個々のGeneChipクローンを、60,770クローンのマウス全長cDNAライブラリーである理研FANTOMクローンに対し対応付けを行った。その結果、従来アフィメトリクス社で48.3%のクローンに対してしか注釈付けされていなかったGene Symbolを76.9%のクローンに対して注釈付けすることができた。さらに、そのアミノ酸配列の物理化学的な性質に基づき、分泌因子及び膜貫通分子の選別を行い、その選別の精度が既知の論文データとの比較により88.6%と判定された(投稿中)。この系を用いて、大脳皮質脳室帯で発現し、皮質板側で発現していない分泌因子及び細胞表面因子として426クローンが得られ、in situ hybridization法によるさらなる絞り込みの結果、脳室帯特異的な分泌因子及び細胞表面因子として88クローンを同定した。さらに、同定したクローンの1つであるS1P1に着目し、S1P1を発現している脳室帯と、S1P1を発現していない中間帯及び皮質板とにおけるカドヘリン複合体の差異について検討した。その結果、大脳皮質神経細胞は移動を開始する領域である脳室下帯から中間帯にかけて、カドヘリン複合体を形成するα-cateninのタイプがαE-cateninからαN-catenin IIへとスイッチングすることが判明した。S1P1は大脳皮質形成期にαE-cateninの消失を抑制することで、αE-cateninからαN-catenin IIへのスイッチングを制御している可能性を考えている。
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