高次脳機能における抑制性神経回路網の機能を明らかにするために、ラット頬髯に対応する体性感覚野(バレル皮質)に着目し、回路網の空間的な非対称性を明らかにした。ラットは、5列に並んだ頬髯を前後に振ることによって、外界探索を行うことがわかっており、髭を動かす方向が髭列方向であること、以前申請者らが行った個体レベルでの神経活動のイメージングの結果などを考慮し、バレル皮質内での抑制性回路網の空間的な機能的結合様式を調べた。申請者が考案した、バレル皮質のユニークなスライス作成法を用いると、髭列に対応したバレル列方向とそれに垂直方向のスライスとを切り分けることが出来る。これらのスライスを用いて、末梢からの信号が大脳皮質に入力された後、初段の情報処理が行われると考えられる2/3層の水平結合を電気生理学的な手法を用いて調べたところ、抑制性神経回路に関して興味深い知見が得られた。抑制性神経細胞からのGABA放出は、GABA_A及びGABA_B受容体に結合し、前者は短時間の抑制、後者は長時間の抑制をもたらす。バレル皮質内のGABA_A受容体を介した抑制性神経回路は、興奮性神経細胞の周辺に狭い範囲で等方的に存在し、GABA_B受容体を介した抑制性神経回路は、記録している興奮性神経細胞と同じバレル列に沿った方向に長く伸びていることが明らかになった。また、興奮性神経回路もGABA_B受容体を介した抑制性神経回路と同様な空間的非対称性を持つことがわかり、今後これら回路網の空間的特長を手がかりに、機能的役割について研究を進めていく予定である(現在投稿中)。
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