申請者が考案した「毒素受容体を介した標的細胞ノックアウト法」(TRECK法)は、疾患モデルマウス作製に有効な方法である。TRECK法の毒素受容体として用いる「ヒト由来ヘパリン結合性EGF様増殖因子(hHB-EGF」は、ジフテリア毒素受容体としての機能ももっているが、本来の増殖因子としての活性も有しておりTRECK法の目的としては最適な分子ではない。そこで増殖因子活性を失いかつ、分泌型にプロセスを受けない変異型hHB-EGF、すなわち人工ジフテリア毒素受容体を作製することが本研究の目的である。毒素とhHB-EGFとの結合に重要なアミノ酸が既に明らかになっており、またhHB-EGFと相同性をもつEGFの増殖活性に重要なアミノ酸もわかっている。これらの情報をもとに、増殖因子活性を失いかつ毒素結合活性を保持するようなアミノ酸変異6箇所、10種類を作製し、その増殖因子活性と毒性とを調べたところ、117番目のlをVに置換したもの、148番目のLをVに置換したものが有効であることが明らかとなった。さらに、膜プロテアーゼ耐性に変異を導入するために、148番目のLをSに、149番目のPをTに置換したhHB-EGFを作製したところ、予想通りプロテアーゼ耐性を示すことがわかった。今後は、上記の変異型hHB-EGFの増殖因子活性と毒素結合活性を定量的に同定し、目的の人工毒素受容体を作製し、それを用いて肝炎モデルトランスジェニックマウスを作製する。
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